大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和62年(行ツ)123号 判決

岐阜市長良真生町一丁目六番地

上告人

中元輝義

右訴訟代理人弁護士

上原悟

新長巖

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 吉田文毅

右当事者間の東京高等裁判所昭和五九年(行ケ)第一九六号審決取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年七月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上原悟、同新長巖の上告理由及び上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認するに足り、その過程に所論の違法があるとはいえず、また、所論引用の判例に抵触する点も存しない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 四ツ谷巖 裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 大堀誠一)

(昭和六二年(行ツ)第一二三号 上告人 中元輝義)

上告代理人上原悟、同新長巖の上告理由

上告人は原判決の事案解明に対する詳細な調査と分析に対し敬意を表するものであるが、しかもなほ原判決に は右の諸点において判決に影響を及ぼすこと の明らかな違法があることを申立てざるを得 ないことを遺憾とする。

第一点

原判決には、御庁判例〈1〉昭和四二年(行ツ)第二八号事件判決昭和五一・三・二〇大法廷言渡(以下第一判決という)、及び〈2〉同昭和五四年(行ツ)第二号事件判決、昭和五五年一月二四日第一に小法廷言渡(以下第二判例という)の違背がある。

右第一判例は無効審判又は拒絶不服審判に対する審決取消訴訟においては審判手続において審理の対象とされなかった特定の具体的公知事実又は拒絶理由を取消訴訟手続において主張することを許さないとする趣旨のものであり、第二判例は右第一判例の原則を履えつつ限定的に出願時における当業者の技術常識の認定について、これを明らかにする目的の範囲内で審決を維持するための新資料の採用を許す趣旨のものであると理解する。

しかるに原判決は事件の審理判断に当って、右各判例の範囲を超えた採証によって事実認定を行い上告人の請求を排斥したものである。

以下その内容を詳述する。

特許庁審決以外に新証拠として原判決が事実認定に採用した証拠は甲第二〇号証の一(本願明細書)、甲第二号証(化学プロセス集成第一九五~第一九八頁)乙第一号証の一乃至三(化学工業通論第一五七、第一五八頁)甲第一九号証(昭和五四年九月一七日付手続補正書)甲第二六号証(肥料便覧)甲第六号証(分析証明書)甲第七号証(試験結果報告書)甲第八号証(万勝肥料試験結果報告書)甲第九号証(分析測定結果証明書)である。

右各証拠のうち甲第一九号証、甲第二〇号証は出願人の認識を表明した文書であるから一応除外し、原判決が周知技術認定の資料とした甲第二号証、乙第一号証の一乃至三、及び甲第二六号証、甲第六号証乃至甲第九号証について考察する。

(一) 甲第二号証、乙第一号証の一乃至三について。

右は電気炉によるリン鉱石の処理法及びその装置を記載した新たな証拠方法である。

そして右甲第二号証に、リン鉱石の前処理として粉粋、造粒、煆焼、の各工程を必要とすること、及び並列処理のための集塵装置、炉ガス回収装置、冷却塔装置等が記載されていることは原判決認定(判決書25丁裏2行~26丁表7行)の通りである。

そして乙第一号証の一乃至三に右各装置の記載がないことも原判決認定(判決書26丁7行~11行)の通りである。

問題は原判決が乙第一号証の一~三を引用して「従来のリンの工業的製法においては、これらの装置があえて必要とされなかったことは明らかである。」(判決書26丁表末行~同丁裏2行)と断定したことである。

原判決のいう「これらの各装置」が何を指示してしるかは文脈上必ずしも判然としないが、「冷却装置はガス状のリンを液化するためのものであることは自明のこと」(判決書26丁表5~6行)としているところからみると、「これらの各装置」というのは集塵装置のみならず前述の前処理工程に必要な各装置を含むものと解さざるを得ないのであり、そうであるとすれば、原判決はリンの工業的製造に関する周知の方法及び装置として、甲第二号証に示された方法及び装置とは別箇に乙第一号証の一~三の存在を根拠として単にリン鉱石を電気炉に投入して反応させ生成したリンガスを冷却回収するという単純かつ原始的な方法及び装置が公用されていたと認定し、これによって本願方法における構成要件(4)……粉粋、造粒、煆焼の前処理工程と電気炉排出リン蒸気から不純物を分離するための電気集塵装置とを欠く単純な電気炉の使用条件……の進歩性を否定したことに結果する。

しかしこの点に関する上告人の知見によれば乙第一号証の一乃至三に示す方法並に装置は湿式法による黄リン製造法の発展とともに相対的に不利であるとされて、甲第二号証に示された一連の連続処理法に進歩するまでは産業的に利用されなかった方法である(但し燐酸製造の第一次処理手段としては別)

このように当業者が不利益であるとして採用しなかった技術は、仮に古い文献の記載において周知であるとしても、本願出願当時リン鉱石から黄リンを回収する技術としては悪しき手段、採用し得ない手段としても周知であったのであるから、これを出願当時の当業者技術水準を示す証拠として積極的に採用することは明らかに御庁前記各判例の趣旨に反する違法な採証であると言わねばならない。

(二) 再び甲第二号証について。

原判決は本願の構成要件(3)の水性スラリの形で排出された灰分について”脱水しさらに水分約一〇%程度にまで強制乾燥する”ことについて、甲第二号証中に「電気炉における還元用電力を節約するためにベレットの煆焼工程で揮発分を残さないようにする」との記載があることを根拠として、「そうすると、本願発明において、第一引用例記載の発明における水性スラリーの形で得られる灰分に相当する灰分をリン採取の原料に用いるに際し、乾燥により揮発分たる水分を一〇%程度にまで下げる工程を設けることは、当業者にとって格別困難であったということはできない」として審決のこの点に関する誤認は進歩性否定の結論に影響を与えるものではないとした(判決書23丁裏8行乃至24丁裏末行)。

しかし甲第二号証にいう揮発分とはベレット造粒時に添加した水分のことであるから、”煆焼により揮発分を残さないようにする”との記載は水分を〇%になるように煆焼するものと読み取るべきものであり、そのことは還元用電力を節約するという目的とも背馳しない。

ところで本願方法においては約一〇%程度の水分が残留させられているのであって、このような含水状態であっても電気炉投入原料として使用することが、可能かどうかは少なくとも甲第二号証の右記載から窺い知ることができない筈である。何となれば両者は全く別箇の経験則に従う事案であるからである。上告人が右要件を導き出したのは種々の実験を重ねた結果であり含水率一〇%程度であれば電気炉の継続的な安全運転に耐えられることを発見したからに他ならない。

従って構成要件(3)は上告人が独自の実験に基づいて算出し得た含水率であり、かつこの点については審決の判断が欠落していることは原判決も認めているところである(判決書23丁裏4行~7行括弧内)。

そうすると原判決は甲第二号証を援用することによって審決の欠落を補充した結果となるが、もし被上告人が原審において甲第二号証を援用して審決の結論を維持すべく弁論すれば上告人としてもその不適不当の所以を充分に主張し得た筈であり、このような場合における新規資料の甲第二号証の採用は前記各判例の趣旨にてらして違法である。

(三) 甲第二六号証について。

原判決は甲第二六号証(肥料便覧)を援用し、人の糞に0.5%尿に0.1%のリン酸が含まれていることが記載されているから、人の尿や糞に、リンが含まれていることは、普通に知られていたものということができるとした(判決書30丁表8行~同丁裏4行)。

しかし人の尿にリン酸が含まれていることは第2引用例の記載によって知られていたとしても人の糞に割合にしてその五倍ものリン酸が含まれていることを知り得るのは甲第二六号証の存在によってのみである。

このことは現に審判を下した特許庁審判官も知らなかったし、原審裁判官各位にもそのような知見はなかった筈である。况んやリン鉱石からの黄リン回収を目的とする当業者において右の事実が周知であったとすることはできない。

そして、人の尿はともかく、人のし尿がリン原料たり得るや否やの公知性に関して甲第二六号証は原審訴訟手続で初めて顕出された資料である。

甲第二六号証なくして人のし尿に含まれる燐酸形態、含有量を知り得なかったことは甲第二六号証の記載を引用した前記判決文自体からも明らかであり、換言すれば甲第二六号証の援用なくして人のし尿に含まれる物質の公知性について審決判断の適否を決定することは不可能であった筈である。

従って甲第二六号証の採用も亦審決手続において審理判断をうけなかった新たな公知資料の採用であって、明らかに前記各判例に反して違法である。

(四) 乙第一号証の一~三及び甲第六号証乃至甲第九号証について。

原判決は甲第六号証乃至甲第九号証の記載事実を引用して本願発明のし尿乾燥処理物又は都市下水汚泥中のリン酸分の含有率認定の資料とし、さらに乙第一号証の一~三に記載された燐鉱石分析表の記載をも資料とし、両者を対比したうえで”以上の各記載を比較すると灰分中のリンの含有率はリン鉱石のそれに比してかなり少ないとした原審決の認定に誤りはなく”として審決の判断を維持した。

ところで、乙第一号証の一~三に記載された燐鉱石成分表が当業者に周知であるとしても、少くとも甲第六号証乃至甲第八号証に記載されたし尿処理後の残渣乾燥物や甲第九号証記載の都市下水汚泥の焼成処理後の汚泥残渣(水分を11.38%を含むことはその記載自体から明白である。)中における五酸化二リンの含有率は周知ではない。

何となれば甲第六号証乃至甲第八号証は上告人が自ら経営している肥料製造会社のため及び甲第九号証は上告人自身の研究の参考のために分析を求めたものにすぎず、上告人が自らこれらの分析報告書を公知又は周知状態に曝らした事実はない。

そして、もし原審訴訟手続において甲第六号証乃至甲第九号証の新たな顕出がなければ原審が前記の如き対比判断をなしえなかった筈であることは判文自体から朋らかであるから、結局原判決は特許庁の審決においてその判断の範囲に入っていなかった非周知の新資料を採用して本願発明の進歩性否定の根拠としたことになる。

右は前記各判例に違反すること明らかである。

第二点

原判決には理由不備又は判断逸脱の違法がありこの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第一点(四)に述べた通り、原判決は甲第六号証乃至甲第九号証の各記載と、乙第一号証の一乃至三の燐鉱石分析表の記載を引用して「灰分中のリンの含有率はリン鉱石のそれに比してかなり少ないとした審決の認定に誤りはなく、本願発明の作用効果が顕著なものといえないとした審決の認定、判断に誤りはないとした。(判決書32丁表5行~33丁表9行)

そして右は、「し尿からの不溶性残渣におけるリンの含有量は、リンの工業的原料であるリン鉱石におけるリンの含有量に比してかなり少なくて、リンの回収率も低いとみられるから本願発明の効果は顕著なものといえない。」(判決書6丁表1行~4行)とした審決に対し、”本願発明における水分約10%にまで乾燥した灰分中には20~27%の五酸化二リン(P2O5)の形のリン分が存在する。本願発明では、この灰分に、簡単な装置で、かつ少量の分解エネルギーを供給することによって、リン鉱石から得たものに比し純度の高い良質のリンを製造することを可能としたものであって経済的工業的に十分な収益を上げることができるものである。”(判決書16丁表2行~8行)とした上告人の主張に対する判断としてなされたものである。

右引用で明らかなように審決が直接に判断しているのは、し尿残渣中におけるリンの含有量と、本願方法における回収率の二箇の問題であって、審決はその双方についてリン鉱石処理の場合に比してかなり低いと判断しそのことをもって顕著な効果なしとしたのである。

これに対し上告人が本願方法において使用するし尿又は下水汚泥焼成残渣中のリンの含有量及び本願方法における回収率の双方は、リン鉱石のそれに比しかなり低いということはできず、さらに回収方法もリン鉱石を原料とする方法に比べて、簡単でありながら純度の高い黄リンを得ることができるので、方法全体として工業的にも充分成立し得るものであると主張したのが争点である。

右に対し原判決は問題をリン鉱石と本願原料中におけるリン分の含有率の問題として捉えこれについて判断したのみである。

しかし凡そ異なる原料から特定物質を精製回収する方法の優劣を検討するに当って、原料中の成分含有率の多寡の一事をもって決する程非合理な論理はない。

実験室的にはともかく産業的には原料中の成分含有率が高くても回収手段に費用を要するとか純分の回収率が悪いとか或は原料自体の絶対量が少ないとか採取が困難である等々の理由で採用されない原料や手段が多くある一方、原料中の成分含有率が低くても前記と反対の利点を有する故をもって利用されている原料や方法も数多く存在する。このことは産業人のみならず通常人の常識である。

本願発明において原料灰分中に存在するリン分は既に五酸化二リンの形態であるから単純な炭素還元手段を用いればよく、又原料中の不純物の量も極めて少ないから蒸発するリン蒸気中から不純物を分離するための電気集塵処理等を必要とすることなく純度の高い黄リンを95%以上の高い回収率で得られるのである。

これに対し引用されたリン鉱石からリンを回収する方法は、乙第一号証の一~三、及び甲第二号証に示されている如く、リン酸カルシウムの形で存在する原料中に多量の珪石を投入反応させて、先づカルシュウム分を硅酸カルシュウムの形で分離して五酸化二リンを形成させ、次いでこれを炭素で還元してリン蒸気を得ることになるから、これらの工程において多量の分解エネルギーを要するとともに、リン蒸気に混入して発生する硅酸カルシュウムその他の不純物を含む多量の粉塵を分離して純分の高いリン分を得るための除塵工程(乙第一号証)や高価な電気集塵処理装置の並列設置(甲第二号証)が不可欠とされているのである。

右の次第で、異なる原料からのリンの精製回収方法の優劣につき、審決は原料中のリン分の含有量及び回収率の双方についての認定を根拠として物の製造方法としての優劣性を判断しており、上告人は右二箇の根拠を否定し、かつ方法全体の評価の問題として争っているにもかかわらず、これについて単に原料中のリン分含有率……含有量の問題であって含有率の問題ではない……をとりあげその数字対比のみによって決した原判決には明らかに理由不備又は判断逸脱の違法がある。

第三点

原判決には左の点において審理不盡、理由不備の違法がありこれらの違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

(一) 上告理由第一点(一)において述べた通り、原判決は、リン鉱石からのリンの回収方法には、甲第二号証に記載するK NAPSACK装置及び方法と、乙第一号証の一~三記載の装置及び方法が行われていると判断し、このことを本願方法の進歩性評価の前提としたものの如く見受けられる。

しかし、本願方法は原判決が引用した甲第二〇号証の一(本願明細書)中に「従来リンはリン鉱石を原料として製造されているが、このリン鉱石中にはケイ酸分、鉄、アルミニウム等が多量に含まれており、このため前記金属類を含まない純度の髙いリンを製造することが難しいという難点があった。」(本願明細書1頁末行~2頁4行)「従来のリン鉱石を使用する方法と比較してケイ酸分、鉄、アルミニウム等の金属類を殆ど含有しない純度の高いリンを容易に製造することができる」(前同10頁13行~16行)と記載されているように一般のリン鉱石精錬法では困難な高純度のリンを容易に得る方法であるとともに技術的には除塵工程を必要としない製法である。

一方乙第一号証の一~三に示す方法では電気炉から排出されるリン蒸気は一酸化炭素の外に水蒸気フッ化硅素、炭酸ガスとともに多量の粉塵を排出するので、この粉塵を除塵しなければ高純度リンを得るための次の精製工程へ進むことができない。(このことは乙第一号証の一~三自体に記載されている。なほリン酸を得る目的であれば除塵を必要としない。)

従って、原審は乙第一号証の一~三の装置及び方法と甲第二号証の装置及び方法が、基本的には同一の電気炉使用による分解還元装置であり方法であることを知っていたのであるから、その点の差異について若干の審理を盡せば乙第一号証の一~三の方法と本願方法や甲第二号証の方法の差異が明らかになった筈である。

ところが原審はこの挙に出ることなく乙第一号証の一~三について集塵装置を必要としない装置であると速断したのである。

(二) 上告理由第一点の(二)の主張は本申立の理由としても主張し、次の通り付加する。

なほ乙第一号証の一~三に示された燐鉱石分折表によっても、記載された各産地の燐鉱石の含水率は0.90%から3.83%の範囲に約10%という高率の含水率を示す原料は何一つ見当らない。

従って原審は本願発明の構成要件(3)の内容について審理を盡すことなくその技術的意味の把握を誤り、ひいては本願発明の要旨を誤解したことに帰する。

(三) 原審は人のし尿や下水汚泥の焼成乾燥物のリン原料性について審理を盡さずその判断を誤ったものである。

この点については上告理由第二点に述べたように、原審は、乙第一号証の一~三に記載する燐鉱石の成文分析表の五酸化ニリン含有率30.51%~40.24%と、甲第六号証乃至甲第九号証の報告書に記載された数字を比較した結果、本願方法における人のし尿焼成乾燥物中の五酸化二リンの含有率20.4%~23.61%及び焼成汚泥の含有率14.13%がかなり少ないから審決に誤りはないとした。(判決書32丁表4行~33丁表7行)

右の数字の対比自体は誤りではないが、もし原審がこの点について若干の審理の労を惜しまなければ、乙第一号証の二の一五八頁一六行以下に「尚燐鉱石の外に、本邦では沖縄大東島に産する燐酸アルミニウム(P=16~17%)を用ふる。」(傍点は上告人が付した)という記載があることを発見できた筈であり、そうすればリン原料としてリン酸カルシュウムを主体とするもののみならず、リン酸アルミニウムも存在しかつそのリン含有率も多様であって、単に原料のリン分含有率のみの比較で当該方法全体の有用性の有無を論ずべきでないことが明らかになるとともに、本願方法(原料を含む)の有用性について上告人は立証の機会を与えられた筈である。

(四) 甲第二号証、甲第六号証乃至甲第九号証甲第二六号証は上告人が原審決の認定に反する証拠として原審に堤出したものであり、被上告人もこれらを援用してはいない。

又被上告人の提出した乙一号証の一~三も従来製法の反応式を示し、リン鉱石、珪石、炭素の混合割合を変更することの容易性を明らかにするとして提出されたもので(被上告人の昭和六〇年一二月六日付第二回準備書面御参照)原審引用部分を証拠とする趣旨ではなかったものである。

上告人は民事訴訟手続論として証拠共通の原則や相手側証拠に対する援用陳述の要旨を云々するものではないが、少なくとも本件の如く新規に提出された前記甲各号証及び乙第一号証の一~三を審決維持のための重要な証拠の一部とし、かつそれらがなくては主文の結論に到ったと考えられないような場合においては裁判所は右新規に提出された各証拠によって認定される事実の存否について若干の審理を盡すのが当事者構造をもつ民事訴訟法の基本原理であると信ずる。

以上(一)~(四)項に述べた通り原判決には(一)~(三)項において箇々的に、又はそれらを統合して審理不盡、理由不備の違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすべきことは判決の構成自体から明らかである。

以上

(昭和六二年(行ツ)第一二三号 上告人 中元輝義)

上告人の上告理由

特許庁及び髙等裁判所は審判及び判決に控訴の理由なく特許庁の審決だけを引用しているが、日本国家行政上一番困難を期しているし尿処理物の廃棄処分の再生利用に対し、国民の安全を考慮せず、一方的な誤った判断をすることに対し、上告人としては国家の安全を思う時廃棄物の再利用は必要と思います。

特許法上にいう特許とは世界でいまだ発見されていない発明を指すもので、人間の糞と鳥の糞は別の性質のものであることは子供でも知っていることである。それを同一と言うほうがおかしいのです。

尚特許には、公知の品物を利用して発明となっているものは数千数万ある。人糞より黄燐を抽出することはいまだに皆無であり、黄燐抽出している企業も研究している学者もいない。こんな素晴らしい人糞よりの黄隣抽出を単純に考えて判決審決されたことは国民の安全性を基準に実験研究開発をした上告人としては不審に思うばかりであります。

審決では、当業者は誰でも燐を抽出することはわかっていると言っているが、世界の学者は上告人の前で実験をして見せてほしい。現実に科学はそれだけ難もいのである。机上で判断し書類で表現することは何とでも言える。但し上告人の思いはそうではない。度々の実験の末、現在廃棄物として処理している汚泥は原子爆弾より恐ろしい。一億人の国民を死亡させる。恐ろしい有毒ガスを地下で発生させる原因になる。

これは科学者及び燐の性質を知っている人は充分に感知出来る筈である。

現在埋め立て処分しているし尿処理汚泥は多量の燐を含有している。これを地下に埋没した場合に全国の市町村は、有毒ガスを発生する原料を埋立てしていることになる。廃棄物処理法では埋立てを原則としている。(政府)

上告人の実験では酸素を遮断し、一、一〇〇度以上に成ったら燐抽出可能である。これは電気炉に入れた場合と地下に埋没したのと同じ状態になるからである。

日本は火山国である又地震国である。この両方を想定して考えると地下にて黄燐が生成されることは必至である。近い将来火山爆発や地震が発生し地熱と地震によるひび割れが生じ地下に空気が浸透した場合有毒ガスを発生し、白煙が出た場合には全国民は一瞬のうちに死亡してしまう(毒ガス)となることは予想されます。

燐鉱石で黄燐を生産している業者は知っている筈である。人糞から燐を取り出すことは当業者は誰でもわかると審判では言っているのだが、黄燐抽出を一日も早く国政上実施し、国民の安全性を思うのが当然である。厚生省でも数%しか汚泥中P2O5が残留していないと公表しているが、人間は毎日四gのリンを排出していると文献にのっている。これを計算すると毎日五〇〇トン近くの五酸化二リンが処理廃棄されていることになる。一年間では一八万トン、戦後四〇年間で七〇〇万トンの五酸化二リンを処理して地中に廃棄している。地下に埋没したし尿処理物は数百万トンの有毒ガスの発生源として廃棄処分されている。この有毒ガス発生源を国民が知ったら一大事である。早急に再利用して廃棄べきである。(厚生省はリンの含有量に対して少量安全といっているのが間違いであり多量のリンが廃棄されている)また地下水に溶けて混入した場合は水に溶けた五酸化二リンは人体に有害になることは間違いない。

本発明の目的は薬にもなるし毒にもなるこの黄リンを研究も実験も開発もせずに簡単に審決することを残念におもっている次第であります。

全国の地方自治は特許が登録されることを期待して再利用を計画している市町村が多数でありますが、これはいかに地方自治が多額の処理費用と安全を考えているからである。地方治はこの廃棄物を行政上廃棄処理しているが、危険性も感知している筈です。上記のような次第でありますが最髙裁判所、裁判官中には国家国民の安全性を検討していただき、燐鉱石と人糞とは物(出発原料)が違っていることと、人糞より黄燐抽出は学者でも気が付かずに今日まで放置していたことを念頭におかれて調査願います。これは戦後機械化が発達した理由で多量のP2O5がし尿中の汚泥に残留処理されたのが原因です。

この重要な発明発見が不要と成ったら再利用に関しては誰も研究する人も出ないと思います。上告人はこの発見効果を世界人類のため外国に指導するつもりです。

以上

(添付書類省略)

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